「店主、これは義手ですね?」
「お客さんお目が高いねぇ…って、見りゃあ分かるか」
よくぞ聞いてくれましたとばかりに、若い店主は鼻の下を人差し指でこすると白い歯を見せて笑った。
篭手のように見えたそれは、ギー・ギャロワが内部の何か(メカトロニクス)に触れるたび鋼の五指を痙攣させている。
「そいつぁ、東方にその人ありと言われた超特大天才機巧師ヒラガ・ゲンパク様が、機巧の才を発揮しまくって作った傑作武器よ。詳しく知りたい武器はどれだ?解説してやるぜ」
「いや、俺達は修理屋を探しているだけなんだ。妖魔との戦いで鎧をひどくやられてしまってな。打ち直しを頼めるか?」
「悪りぃな。うちは機巧腕専門店でね」
「そうか、では失礼する……おい、何をやっているんだ。帰るぞギー」
アンゲロとゲンパクとの会話は、店頭に並んだ商品を取っ替え引っ替え弄んでいるギーの耳には届いていないようだ。こうなるとギーは止まらない。
ギーが今持っている機巧腕の手首に相当する部分には先程のような拳ではなく、螺旋の溝が入った緩い円錐状の錐が接続されている。
錐といえば手回し式のものしか知らなかったギーだが、この義手もそのような工具の転用武器らしいことが想像できた。
「錐を回転させると必ず同じ回数だけ逆回転して、深く突き刺しても容易に引き抜ける仕組みになっているんですね。よく考えられている。
それに、この工作精度。こんなになめらかに回転するのに、剃刀一枚入る隙間もない」
「どうだい、強そうだろう?岩をも砕くドリルアームだ。武器としてはもちろん、道具としても優れもんよ」
「いいなぁ……ドリルいい……。いくらですか?」
「銀貨七千枚だ」
仲間達は険しい表情で首を横に振っている。
「他に、他にはないんですかっ」
「他って言われてもなぁ……ああ、アレがあったっけ」

「おれっちが作る機巧腕は基本的に旧文明の遺物の複製品なんだが、そればっかりじゃあ特殊すぎて機巧の修行にはならねぇんで、こういったごく普通の品物も扱ってんだ」
ゲンパクは奥の作業台から、まさに組み立て中の黒い機巧腕を取り上げてギーに見せた。
「ガッツ……ゲッツだったかな?昔、有名な隻腕の戦士が使ってたらしい義手の複製品だが、現代の技術だけで作れる代物さ。おれっちはこいつを『闘志の鉄腕』と呼んでる」
「武器は折り畳み式のボウガンと……」
「手首の関節を外すと使える仕込み大砲だ。このギミックのせいで拳が飾りになっちまってるが、まぁ、そこが技術的限界点ってやつだな」
機巧腕の魅力にすっかり惚れ込んでしまったギーは、無言の圧力を放っている仲間達の様子を窺いながらおそるおそるゲンパクに値段を尋ねた。
「銀貨三千枚頂くぜ」
「分割払いでもいいですか?」
「おととい来やが……」
ゲンパクは逡巡した。故郷を離れて機巧の本場に殴り込みをかけ、店を構えること暫し。払えないなら帰っちまえとも言っていられない売れ行きだ。
腕前ひとつで機巧師ギルドのお墨付きをもぎ取ったはいいものの、しょせんは余所者……実績を示さなければいつ見捨てられてもおかしくはない。
「……あー、うちではそういうのは取り合わねぇんだがよ、お客さんの熱意に負けたね。分割なんてみみっちいことは言わねぇ。二割引で二千四百、持ってけドロボウ!!」

 翌日。

闘志の鉄腕を装着したばかりの肘に包帯を巻いたギー・ギャロワは、五人の冒険者達の朝食の卓上に生身の腕で依頼書を置いた。
機巧腕は義手なので当前のことだが、ギーは自分の片腕をすっぱり切り落としてしまったのだ。
だが案ずるなかれ、機巧の天才であると同時に医術の天才でもあるヒラガ・ゲンパクの店に、ギーの腕は新鮮なまま保存されている。

人員募集 研究に協力してくれる人を募集します
内容:実験のデータ収集の補助
興味のある方は、下記の所へ連絡されたし
木の葉通り三丁目 魔導師ファラン・ディトニクス

「昨日のお詫びに、朝一番で仕事を探してきたんです。実験補助ですから鎧は要りませんし、殺すの殺されるのよりはだいぶましだと思って……」
「そう、頑張ってね」
ノーミル達は硬いパンの欠片をスープに浸して流し込むと、ギーには目もくれず解散してしまった。
用事があればパーティに欠員が出るのはよくあることだが、誰も乗ってこないとは……。そういえば食後の一杯がなかった。そんな余裕もなくなったのはギーのせいだ。
空席になった食卓に立ち尽くすギーの背後で、二階の寝室から降りてくる小さな足音が階段を軋ませた。
「おっはよー……って。おじさん、独り?」

 

 ギー・ギャロワとチュカ、そしてステファニーの三人は、依頼書で指定された町外れの屋敷にやってきた。辺りに人影はない。
「うわーお、まるで要塞だねいかにも魔導師の根城って感じ」
「王国の境界が今より曖昧だった頃の名残ですよ。町外れにはこんな古い砦がいくらでもありますから、内装を住居に改造して使っているんでしょう」
一行が屋敷の門をくぐったとき、わずかに開いた玄関の扉の隙間から白い蒸気の尾を引いて何かが飛び出した。
「バウ!バウ!」
「えっ?あたし!?」
物体は全速力で門の外へ逃げるステファニーめがけて弾丸のように突っ込んでくる。小型犬ほどの大きさだが、犬の脚力で出せる速さではない。
徐々に距離を詰めた金属の顎がふくらはぎを掠めた瞬間、ステファニーはとんぼ返りを打って物体の背後に着地した。
「ウーノ!おすわり!」
屋敷の中からの声にウーノと呼ばれた物体は、大きく弧を描く轍を残して急停止すると、四肢の車輪を格納して腹部のパイプから蒸気を放出した。
身体を震わせてまだステファニーを警戒しているウーノは、全身を金属の装甲で覆われた機械の犬だ。そこへ薄汚れた前掛けと三角巾を着けた年若いメイドが駆け寄る。
「ごめんなさい、驚かせちゃって。ウーノはこの屋敷の番犬なの。で、御用は何かしら?」
「お嬢さん、我々は依頼を受けた冒険者です。こちらにお住まいのファラン氏にお会いしたい」
ギーは懐から取り出した依頼書をメイドに示した。
「あなた達が……ああ、いえ。私がファラン・ディトニクス。依頼者本人よ。よろしくね」

 屋敷の内部は最低限の区画が居住用に改装されているだけで、石組みの壁と入り組んだ通路とが往時の面影を色濃く残し、さながら秘密基地だ。
ギー達はウーノを抱えた魔導師ファランと地下へ続く螺旋階段を降りながら、実験の説明を受けた。
「まずは、依頼を受けてくれてありがとう。あなた達にお願いしたいのは、警備用スチームゴーレムの実戦データ収集の補助です」
ギー・ギャロワは口ひげを捩った。実戦だって?まずいぞ……機巧腕の他には護身用の剣一本と、無傷だった一部の防具しか身に着けてきていない。
「スチームゴーレムって?」
「さっきあなた達を出迎えたウーノも、私が作ったスチームゴーレムなのよ。詳しいことは研究室(ラボ)で話しましょう」
言いながら、ファランは螺旋階段の行き止まりの扉を手探りで押し開けた。
「屋敷の地下に、こんな空間が……!」
扉の先は灯火の明かりで満たされ、天井では巨大な換気扇がゆっくり回っている。砦の地下室といえばワインセラーか地下牢が定番だが、少女一人の力で、舞踏会でも開催できそうな広さに改装できるとは思えない。
……と想像を巡らせていると、壁から垂れ下がる幾条もの滑車と鎖の下で、緑褐色に輝く寸胴鍋の群れが忙しそうに立ち働いているのが見え、ギーは合点した。なるほど、あれが彼女の助手というわけか。
「進捗はどうかしら?あら、そう……。最終調整は私がするから、組み立てが済んだら知らせてちょうだい。少し急いでね」
ファランは不格好な寸胴鍋に指示すると、歩きながら説明を続けた。空間を仕切る扉の先には筐形の異様な装置があり、その上に動かないウーノが三体置いてある。
「あなた達、ゴーレムって知ってるわよね?」
「ロボッ……使い魔の一種だね
「スチームゴーレムは魔導師以外の人でも簡単に制御できるように、蒸気機関を併用することで、魔法力の使用を最少限に抑えているの」
ウーノの胴体を中央の接続部から二つに分割すると、前後に巻物(スクロール)を収めるスロットが露出する。
ファランが棚から取り出して読み上げた巻物のうち、後半身に収納したのはボイラーを温める炎の巻物、前半身に収納したのは魔法回路を記した巻物だ。
「つまり、こういうことよ」
薬缶から腹部のタンクに注がれた水の温度が上がり、起動したウーノの魔法回路に呼応して、ごろごろと唸りを上げて振動する異様な装置の表示盤が光った。
この装置はスチームゴーレムの頭脳たる巻物と魔法的に接続されていて、魔法回路の動作状況を細かくチェックすることができるのだ。傍らには記録用のノートもある。
「実験は三段階。初めに、腕試しも兼ねてウーノの兄弟、スチームドッグと戦ってもらいます。あなた達がやられそうになったら実験中止、取れたデータに応じて報酬を支払うことにするわ」
「ちょっと待って。報酬額だけは今のうちにはっきり決めておきたいな」
「そうね……最低でも銀貨五百枚、一段階突破するごとに百五十枚、最後まで付き合ってくれたら二百枚上乗せするわ。相場はよく知らないんだけど、どうかしら?」
ということは、最高額は銀貨千枚。その半額は確実にもらえるわけか。割の悪い仕事ではないとギーは思った。
「うん。それでいいですよ」
「異議なーし
「決まりだね」
「バウ!バウ!」
「それじゃ、さっそく実験を行いましょう」

 三人が立っているフィールドは、さしずめスチームゴーレムの歩行試験場といったところか。凹凸だらけの床面に、消えかかったチョークの直線が格子状に引かれている。
寸胴鍋の群れは全て隣室に引き上げ、どういう仕組みか、仕切り壁の向こうからファランの声が響いてくる。
《準備はいいのね?》
ギーが機巧腕を振ると、それを見たファランの操作に合わせて正面のシャッターが巻き上がった。
「来ますよ……!」
三体のスチームドッグは同時に脚部の装甲を展開し、四肢の車輪で滑るように発進した。冒険者は三方に散る。……一匹を残して。
「あれ?ぴぽ!こっちへおいで!」
「あいー」
理解しているのかいないのか、チュカの相棒ぴぽくらかは空を自由に漂っている。そう、ぴぽくらかは飛べるのだ。
一方スチームドッグはというと、重たい金属の身体で虚しくぴぽくらかに吠え掛かるばかり。仕切り壁の窓の向こうではファランが笑い転げている。
「あー……。まあいいか。チャンスだ撃ちまくっちゃえ!」
「よくないよ!ぴぽー!!」
ステファニーのスリングとギーのボウガンの集中砲火を浴びたスチームドッグは脚部を動作不能なまでに破壊され、炎の巻物の効果が切れるとともに停止した。
《あはは、そうねー。いくらスチームゴーレムでも空を飛ぶのは無理よねー。うん、結構いいデータが取れたわ》

 スチームドッグの残骸の後片付けを三人が総出で手伝えば、午前中に第二の実験まで完了させられる。
魔導師ファランの発明品を壊したうえ報酬までもらう埋め合わせ……というわけではないが、パーティの士気は高かった。
続いてシャッターの影から姿を現すのは、先程まで冒険者と肩を並べてスクラップを拾っていた五体の寸胴鍋達だ。
「お嬢さん、彼らは助手でしょう?壊してしまって本当にいいんですか?」
《どこをどう壊されたか、すべての傷が参考になります。あなた達が全力で戦えば戦うほど、後に続くスチームゴーレムの完成度が高まるのよ。準備はいい?》
ギーは胸に拳を当て、腕を上げて力こぶを作ってみせた。ファランは本気だ。本気には本気で答えねばならない。
《スチームゴブリン!ゴー!》
ゴーレムのサイズが大きいほど、長い巻物、すなわち高度な判断力を備えた魔法回路を搭載することができる。
赤い瞳に知性の炎を宿したスチームゴブリンは冒険者に考える時間を与えず、一体が囮となって斬り込むあいだに残りの四体で四方を囲む戦法を採った。
「がっっはあっ!!」
スチームゴブリンの助走のついた体当たりで吹き飛ぶギー。
シャツの下に着込む革の胸当てだけでは肺臓への衝撃を殺しきれず、危うく呼吸が止まりかけるが、受け身を取って体勢を立て直し、闘志の鉄腕の手首の関節を外す。
「大砲なら!」
「危ないよっ!」
ぴぽくらかを抱えたままのチュカが、ギーの背後に回った別のスチームゴブリンの脚をスライディングするように払い、倒れかかったスチームゴブリンに潰される寸前に転がり抜けた。
四方八方からこうも狙われては、射撃の狙いは定まらない。
「へっへーん。僕、こいつの弱点分かっちゃった
人間ではありえない動きで振り回される金属の両腕の下をかいくぐり、チュカは次々とスチームゴブリンの足元を払ってゆく。
倒れたスチームゴブリンは自力では起き上がれない。腕と脚が短すぎるからだ。
「あの子、いい案だと思うけど危なっかしいなぁ……。ギー、あたし達も行こう」
三服しかないクグモイ草を惜しまず服用したステファニーとギーがチュカに加勢すると、フィールドには五つの寸胴鍋がのたうち回るだけになった。
《はい、そこまで。冒険者さん、さすがに息が上がってるわね。後片付けはいいから、階段を上がってすぐの客室で休憩していてちょうだい》

 手空きのスチームゴブリンに案内された客室には、すでにハーブ入りの紅茶と、木の実を練り込んだ焼き菓子が置かれていた。なんと紅茶からは湯気が立っている。
ファランはずっと研究室にいるはずなので、他に人間の召使いがいなければスチームゴブリンが用意したとしか考えられない。戦闘では弱点もあったが、それを補って余りある汎用性だ。
「こんなに楽ちんな依頼なら、他のみんなも来ればよかったのにねそういえばギーさん、今朝は独りだったけど、いつもの人達と何かあったの?」
「ギーはね、みんなのお金で衝動買いしちゃったの。だからもうギーとは組まないって」
「うーん、冒険者ってそういうものかな」
「もしも命に関わるような……例えば、罠の掛かった宝箱を開けるか開けないかって状況だったら、ギーの身勝手のためにみんな死にかねないでしょ?そんなの誰だって御免だよ」
「じゃ、ステファニーはどうしてついてきたの?」
「あたしは、チュカの友達だから」
ギー・ギャロワは上の空で紅茶をすすった。喉から鼻へと抜ける非の打ち所のないハーブの清涼感にかえって腹が立つのは、ぼんやりと思い出したせいだ。
一城の主でありながら身を持ち崩し、逃げるように屋敷を出るはめになった、あの夜のこと……。
どいつもこいつも、金、金、金!にこにこ笑顔でいるのはこちらが金を払えるうちだけだ。一文無しになったと見るや、急に態度が変わる。
話し相手が欲しい。目の前でいちゃついているようなお子様では駄目だ。ギーはおもむろに立ち上がり、螺旋階段を降りた。
「お嬢さん、何か手伝いましょうか?」
「あら、ナンパ?悪いけど人間に恋してる暇はないの。私の恋人は当分この子ですから」
魔導師ファランは七人の寸胴鍋の妖精に囲まれて、頑丈な太い鎖で懸架されたひときわ巨大なスチームゴーレムの調整の最終段階を監督していた。
ゴーレムの後頭部に巻物を差し込んで腕の関節を動かし、取り出した巻物の回路図に何事か書き加えてはまた差し込む。魔法回路に記述した動作と実際のメカの動作とのずれを見極めているのだ。
「ずいぶん大型のスチームゴーレムですね」
「本当はもっと小型のままパワーを上げたいんだけど、これ以上の高温高圧に耐える素材となると魔法金属ぐらいしかなくて、どうしても大型化しちゃうのよね」
「素材はどこから?」
「冒険者さんには関係ないわ。……さて、あんまり精密性にこだわってもきりがないし、日が暮れる前に最後の実験を始めましょ」

 口から蒸気を噴き出し、大人の背丈を裕に超えるスチームゴーレムが起動した。あまりにも巨大すぎるので、格納庫からシャッターを通る際に一旦身を屈めなければならない。
《この子はスチームサイクロプス。武器の棍棒はセットしていないけれど、そのパワーは強烈よ。気をつけてね?それじゃあ第三回目、いってみましょう!》
「ガオオォォォン!」
機械の一つ目巨人は吠えた。
地下室の揺らめく灯火を受けて鈍色の光沢を放つ右足が、左足が、一歩踏み出すたびに臓腑を突き上げられるような振動が床を通して冒険者達に伝わってくる。
「ねアレ使っていい?」
「だーめ。確かにチュカの爆弾なら一撃必殺だろうけど、こんなところで使ったら天井が崩れて全員生き埋めだよ」
「じゃあどうやって倒せっていうのさー。囮も足払いも効きそうにないよ?」
《隙あり!バックス!パンチよ!》
鋼鉄の拳がフィールドに振り下ろされ、その衝撃で飛散した砂礫が咄嗟に跳び退いた冒険者に容赦なく襲いかかる。
死ねええええええっ!!
「今、死ねって言わなかった!?」
「これって本当にただの実験だよね!?」
「二人とも、とにかく動きましょう!」
ギーは機巧腕の装甲を展開した。外れた手首の関節から黒い鋳鉄の砲口がせり出す。
「あの巨人は腹の中で湯を沸かし、膨張した空気の圧力でタービンを回しています!胴体に小さな穴か亀裂でもできれば、それだけで圧力が逃げて動けなくなるはず……!」
手術したばかりの肘にのしかかる砲撃の反動に、奥歯を食いしばって耐える。しかし砲弾は装甲の曲面で弾かれて足止めにもならない。
「くそっ、こんな時ドリルがあれば!」
「(ギーったら、全然反省してない……)」
《あらぁ?あなた達、そんな豆鉄砲でかすり傷でもつけられると思ったの?バックス!スチームブレス!!》
フィールドを舐め尽くす高温高圧の蒸気は生身の人間がまともに喰らえばひとたまりもない。だがこの攻撃は、スチームサイクロプス自身にとっても諸刃の剣だった。
《ああ、もうっ!敵はどこよー!?》
ファランは蒸気で曇った窓を乱暴にぬぐった。同じく結露した一つ目をぬぐって辺りを見回すスチームサイクロプスの後頭部に、いつの間にかチュカが張り付いている。
「ここだよっ!!」
スチームサイクロプスに吸着爆弾タイプの鎮魂歌を取り付けたチュカが装甲を足場に大きく宙返りをして退避した直後、激しい轟音と閃光とが地下室を包んだ。
割れんばかりにビリビリと波打つ窓が三重の魔法強化ガラスでなければ、ファランの顔面に数え切れないほどの破片が突き刺さっていたことだろう。
「やったか!?」
「やりすぎですよチュカ君!」
「てへあれでも対装甲目標用の指向性爆薬だから、衝撃波はほとんど装甲内部に向かうはずなんだけどなー」
もうもうと舞う土煙の中に、おお、見よ!健在のスチームサイクロプスがいまだ膝をついている。だがしかし身動きが取れないようだ。人間でいえば脳震盪の状態である。
《魔法回路をやったのね!?補助回路、動いて!》
弱点が頭部にあると分かれば、あとはボウガンと大砲、そしてスリングによる集中砲火を叩き込むだけだ。
一つ目を砕かれて両腕も宙を掴むばかりのスチームサイクロプスがついに仰向けに倒れたその時、研究室の扉を草色のローブの男が怒号とともに押し開けた。
「ルーシー!ルーシー!!」
《げっ、お父さん!》
「「「お父さん……!?」」」

 

 午後の講義の終了を告げる鐘が鳴った。魔法学院の講師ファラン・ディトニクスは学生達が欠伸混じりに提出してゆくレポートの回収を助手に任せると、装飾過多な両開きの扉を二度ノックした。
これから次の講義までに山のようなレポートを採点せねばならないというのに、学長じきじきの呼び出しとは何事だろう。
「……きみの娘さんのことだよ、ディトニクス先生。聞けば、うちのゴミ捨て場の廃材を使って、健気にも独学で勉強しとるそうじゃないか。魔導師にするつもりはないのかね?」
「恐縮ですが、そのつもりはありません。子を産み、育て、次の世代を作るのが女の勤めだと娘には教えております」
学長はため息をついた。
「では、せめて一度ラボを見学させてもらいたいものだ。壊れた水道管に圧力鍋、最近は古い焼却炉を丸ごと引き取って行ったとか。それは別に構わんが、どんな研究か大いに興味がある」
「いやはや、それだけは……。娘にはよく言い聞かせておきますので……」

「ルーシー!!なんだ、地下室のあの有り様は!お前はゴーレムで戦争でも始める気か!!」
「あの子達はただの警備用よ!炎の巻物の燃焼時間が終われば自動的に止まるから、暴走の危険もないわ!」
「魔導師というのは、世間では疎んじられる存在なのだ!!疑わしい真似をして目をつけられれば、言い訳に耳を貸す者などおらんぞ!!」
顔から火が出るとはこのことだ。ローブ姿が似合わない大男はファラン・ディトニクス。そしてルーシーと呼ばれた少女は一人娘のルーシェラン・ディトニクス。
娘が父の名を騙って冒険者に依頼を出したのだ。本物のファランは、冒険者達に平謝りで銀貨千枚を差し出した時とは血相を変えてまくし立てている。
「私は魔法を暮らしに役立てたいのよ!!危険な場所の力仕事も、ゴーレムを使えば楽にできるわ!やりたいことをやっているだけなのに、どうして我慢しなくちゃいけないの!?」
「思い上がるな!!お前はまだ半人前だ!!」
「だから修行しているんじゃない!!だいたいね、お父さんが研究にのめり込んで家族をほったらかしにするから、母さんにだって逃げられるのよ!!」
「ぬぅ……!」
「こんな町外れに住んで、娘の私が毎日毎日おさんどん?このまま年取ってしわしわになるなんて、ぜったい嫌だからね!!」
ルーシーは腕の中で居心地悪そうにしていたウーノを放り投げ、屋敷の外へ飛び出して行った。
「お前の毎日を支えるために、私が一体どれだけ身を粉にして働いてきたか……!」
「どーしてそれを直接言わないかなー……」
「ステファニー、報酬はすでに受け取りました。あとは家庭の事情です」
 ディトニクス邸からの去り際に、裏庭から妙な乗り物が蒸気の尾を引いて走り出すのが見えた。
四肢の代わりに二つの車輪を備えたスチームホース。ハンドルを握るのは、革の手袋とゴーグルを着けたルーシーだ。
彼女がこの先どこへ向かうのか、それは冒険者の与り知らぬこと。父親と喧嘩別れしたルーシーを目だけで見送りながら、ギーは仲間達に素直に謝ろうと思った。

 

 夕食のテーブルにはいつもの面々が勢揃いしていた。鉄腕のギー・ギャロワは生唾を飲み込み、頭の中の言葉を残らず吐き出した。
……あの夜は、それでも誰も振り向くことはなかったっけ。
「皆さん、先日は私の身勝手さゆえに、本当にご迷惑をおかけしました。今夜は是非、私におごらせて下さい」
「まーた一人で決めやがって。私達(・・)の金だろ?もっと有意義なことに使おうぜ」
ヘー・イッシは空席から椅子を一脚頂戴すると、ヒルベルトと自分との間に置いてギーに手招きをした。

 

おわり

 

引き継ぎ金収入支出ツケ合計
金額(sp)2870+1000-2400-2001270
 
スキルアイテム召喚獣
連射ボウガン、黒き大砲闘志の鉄腕
クグモイ草
 





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Last-modified: 2014-12-09 (火) 21:36:11