「さて、ここから向こう側が君らの仕事場だ。ささっ、入った入った」
依頼人であるリューン水道局下水処理担当局長クラシアン・パイプにそう言われ、下水道内の鉄格子をくぐる冒険者達。
というのも、今回冒険者達が受けた依頼は下水道の経路確保の為の安全確認だ。
報酬の支払いが翌日な上、悪臭に耐えなければいけないものの、調査する区画は狭くてそこまで危険ではない依頼のはずだった。
鉄格子をくぐった直後に白く大きな魚らしき生物が冒険者達のそばを通って行くまでは。
「なんだ、今のは……?」
「まずいなあ……。一匹逃げたか」
へー・イッシが思わず疑問を呟くが、依頼人はそれに気づかないままそう言った。
まるで調査する区画に危険な生物が存在するかのような物言いに驚く冒険者達。
しかし、依頼人の行動は早かった。
「……やばっ。諸君、健闘を祈る」
そう言った依頼人によって冒険者達が行動を起こす前に鉄格子は降り、退路が塞がれた。
「待て!これはどういう事だ!」
「あー、なんだ、その、ああいった化け物が16体ほど居るとの報告があった」
どうみても裏切ったようにしか見えない依頼人に対して怒るヒルベルト。
しかし、依頼人は悪びれる様子もなく話を続けた。
「それで、だ。経路確保のためにあの分けのわからん化け魚を16匹ぜんぶ倒していただきたい。あー、1匹逃げたから15匹か。まあ、君らならきっと成し遂げてくれるだろう。頑張ってくれたまえ」
明らかな契約違反に激昂する冒険者達。
しかし、依頼人は文句をことごとく躱していく。
そんな言い争いをしている間に、先程発見したものとと同じ奇魚が3匹も泳いできた。
「影ながら応援しよう。ファイトだ!!」
「チクショウ!!」
やけになったステファニーは、チュカに貰ったシコンという爆弾を白い魚に投げつける。
その爆発の威力は凄まじく、3匹全てを破壊し尽くした。
そして、依頼人が新たな事実を告げた。
「そうそう、鉄格子の開閉装置の関係で、その区画は外からしか入れないないようになってるぞつまり、君らは私に頼まないと出られない……ファイトだ!」
こうして、依頼人の態度に苛立ちつつも、冒険者達の仕事は始まったのだった。
どういう訳か奇魚は3匹ずつに分けて鉄格子によって閉じ込められており、一度に全てが襲い掛かって来ることは無かったが、それでも楽な相手ではなかった。
群れに1匹ずつ色違いの個体がおり、力の強い赤色、毒の牙を持った緑色、素早い青色、魔法の矢を撃つ紫色とそれぞれが強力な力と個性をもっていたのだ。
それらに勝利したのは、ギー・ギャロワとアンゲロが覚えた魔法のお蔭だった。
「まさか魔法の矢を撃つ個体まで居るとは……アンゲロの魔法防御がなければやられてたかもしれません」
「そちらこそ、その迅速なる風という魔法には助けられた。風の魔力を全員に付与して回避し易くするとはまるで聖霊の盾みたいだ」
互いに覚えた魔法を褒め合う二人。
ギー・ギャロワは無名庵という店で、アンゲロは賢者の塔でそれぞれ覚えた魔法は払った金額に見合うものだった。
「そんな事より、少し探索しようぜ。これだけ戦って800spじゃ割に合わなさすぎる」
そう言いつつ、区画内に唯一あった扉を盗賊の手で開けるへー・イッシ。
報酬の増額が望め無さそうだった事もあり、誰一人反対する事なく扉を開けて部屋に入って行った。
しかし、部屋にあった中で目ぼしい物は何かが書かれた羊皮紙くらいだった。
「随分古い記録みたいだけど……とりあえず、読んでみるわ」
羊皮紙によると奇魚はシュレッダ・フィッシュというごみ処理用魔法生物のようだった。
しかし、人間を粗大ごみと誤認する、魔法の矢を撃つといった欠点が指摘されていたのだが、開発者はそれを些細な問題と片づけるどころか完成度の高さの裏付けとまでしていた。
勿論、そんな考えに至ったのは開発者だけで、周りには失敗作とされていたのだが……。
ちなみに、開発者は後にそれを盗人対策に使ったらしく、鉄格子に閉じ込められた奇魚がそれだったらしい。
「読んでて頭が痛くなるけど、こんな感じね」
「……とりあえず、これは依頼人に渡しておくか」
という訳で、冒険者達は羊皮紙を拾って部屋を後にし、依頼人の待つ出入口へと向かった。
依頼人に15匹全て倒した事を報告し、さらに開発者の手記が書かれた羊皮紙を渡し、後は帰るだけのはずだった。
最初に逃げ出した奇魚が再び現れ、そのまま通り過ぎたと同時に、何か非常に大きな音が近づいてこなければ。
いち早く、何かを察した依頼人が逃げ出した後に現れたのは、古代王国期最悪の生物兵器と言われるビボルダーだった。
「嘘でしょおおおおお!?」
「お、落ち着いて下さいノーミル。こうなったら戦うしかありません」
どうにかビボルダーを迎え撃とうとする冒険者達だが、動揺を隠せなかった。
そんな時、冒険者達を通り過ぎた奇魚が戻ってきて、今度はビボルダーに襲い掛かった。
「仲間が居なかったんだな……倒したのは俺達だが」
「とにかく、あの魚に続くぞ!」
ヒルベルトの号令で攻撃を開始する冒険者達。
しかし、浮遊し、空中を自由自在に動き回るビボルダーには攻撃を当てる事すら出来ない。
嫌な予感がしていたギー・ギャロワが予め迅速なる風を唱えていたことにより攻撃がを躱しやすくなっているのがせめてもの救いだった。
「奴にはフェイントが効きませんから、地道に攻撃するしか……」
打開策を探そうとするギー・ギャロワを嘲笑うかのようにビボルダーは触手から破壊光線を発射しようとする。
誰もがあきらめたその時、触手に奇魚が噛みつき、破壊光線を封じた。
その隙を見逃さず、へー・イッシがビボルダーに剣を突き刺す。
「これなら光線も誘眠音波も使えないな」
「どうやら、何とかなりそうね」
と、アンゲロとノーミルが言う。
ビボルダーは強敵だが、触手から放つ魔法の光線や誘眠音波を封じられればその戦闘能力は半減したも同然だ。
しかし、奇魚を振りほどこうと暴れるビボルダーが、ステファニーにぶつかってきた。
だが、無理な体勢での攻撃だった為か、ステファニーは受け身を取る事に成功していた。
「イテテ……お返しだよ!!」
そして、抜け目のないステファニーは攻撃後の隙をついてナイフをビボルダーに突き刺した。
ステファニーに続くとばかりに、へー・イッシが激しく剣で切り付け、その後にアンゲロとギー・ギャロワが続く。
その間にも、奇魚の噛み付きが少しずつビボルダーを弱らせていた。
だが、ビボルダーはそれでも倒れず、最も自身にダメージを負わせたへー・イッシに体当たりする。
「があああああ!!」
あまりの衝撃に弾き飛ばされるへー・イッシ。
辛うじて内臓を傷つけてはいないものの、骨が2、3本折れていた。
「へー・イッシ、しっかりして」
すかさずノーミルが癒身の法でへー・イッシの傷を癒す。
今のノーミルの実力では完治させる事は出来なかったが、それでも骨折を治すには十分だった。
そして、傷を癒したへー・イッシの剣が、ビボルダーに新たな傷を作る。
既に傷だらけだったビボルダーは、遂に限界が近づいてきたらしく、その一撃を受けて怯む。
「今だ!!」
ヒルベルトの剣が、ビボルダーの大きな目を切り裂き、止めを刺した。
一仕事終えた冒険者達は、依頼人に最後に残った奇魚を投げ渡すと、即座に下水道を後にしたのだった。
もっとも、依頼人に渡した奇魚が、報酬の支払いがある次の日に一騒動起こす事になったのだが、それはまた別の話である。
| 引き継ぎ金 | 収入 | 支出 | ツケ | 合計 |
金額(sp) | 2690 | +800 | -2000 | -200 | 1290 |
| スキル | アイテム | 召喚獣 |
得 | 迅速なる風、魔法防御 | | |
失 | | シコン | |