数日前、ヒルベルトは物盗りに追われていた老人を助け、謝礼として船のチケットを貰っていた。
そのチケットは、南国のリゾート地であるゴージャス島への往復切符で、1000sp以上の価値がある代物だ。
宿に帰りその事について話してみたら、余りに美味すぎる話にチケットをうらやましそうに眺めていた仲間たちの顔がどんどん引きつっていくくらい怪しい話だ。
とはいえ、チケットを転売するのはあらぬ疑いがかかりそうで出来ず、かといって行かないのも勿体無い気がしたので、しっかりと準備した上でヒルベルトが行くことになったのだった。

「立派な船で客の身なりも良い……島に着くまでの2日間は安心して良さそうだな」

 と、出航した船の甲板で拍子抜けしつつ呟くヒルベルト。
チケットが罠である可能性も捨てきれなかったが、上流階級の人間を巻き込んでまで自分程度の冒険者に対して行動を起こす奴がいるとは思えなかった。
それなら、島についてからのほうがまだやりようがあるはずだ。
そう考えたから、ヒルベルトが気を抜いていると、眼鏡をかけた少女が歩いてきて……。

「ちょっと! そこのあなた! 名前は!」

 と、いきなり名前を聞いてきた。
少女は、言葉こそ勝気なものの立ち居振る舞いからしてどこかのお嬢様らしく、従者を一人連れていた。
しかし、その従者は寡黙で礼儀正しい所はそれらしいものの、それが強烈な違和感となるくらいに強面だった。
見た目だけなら、攫われたお嬢様と誘拐犯といったほうがしっくりきそうだった。
そう二人を観察しつつヒルベルトは自己紹介したのだが……。

「ヒルベルト!良い名前ね! 私はアニー、あっちのでくのぼうはサノーヴァ。旅は道連れっていうじゃない。少しお話してくださらない?」

 と、アニーが目を輝かせながら話してきた。
最初は手柄を自慢しているみたいで話にくさがあったが、アニーが余りにも熱心に聞くのでついつい話してしまうヒルベルト。
興奮したアニーが冒険者になりたいと言い出してサノーヴァに窘められるまで話は続いた。

「色々話してくれてありがとう! また島で会ったらよろしくお願いするわ」

 そして、アニー達と別れると、今度は帯剣した男に話しかけられた。
男の名前はフレディ、同じリューンの冒険者だった。
ゴージャス島の妖魔退治の依頼を受けてゴージャス島へと向かっているらしいが、その報酬はなんと5000sp。
羽振りの良い貴族が依頼人でも余程の事が無い限り有り得ないような額だ。
互いにチケットを入手した状況の怪しさと船の様子を見て拍子抜けした事を話し合っていたら日が暮れたので、二人はそれぞれの船室で夕飯まで休むことにしたのだった。

「それにしても静かだな。いや、静か過ぎる……」

 そうヒルベルトが呟いたのは、船室に入ってから数時間後の事だった。
それが妙に気になったので、原因を探る為にランタン片手に船室を出るヒルベルト。
とりあえず甲板に出ようとしたのだが、なんと甲板へと続く階段が消えてたのだ。
それでも諦めずに自分の居なかった船室を調べてみると、何者かの視線を感じた所でランタンの油が切れた。
身に迫る危険を感じつつも数秒でランタンに油を補充して火を灯すと、二つの顎を持った一つ目の怪異が3体も浮遊し、ヒルベルトを取り囲んでいた。

「亡霊?……いや、透けてるわけではなさそうだ。なら、剣が効くはずだ!」

 と、亡霊のような存在でありながら実体がある事を見抜くヒルベルト。
体勢を立て直したヒルベルトは、剣を怪異の瞳に突き刺して自身の推測が間違ってないことを証明する。
それに、怪異の見た目は恐ろしいが、その実力はゴブリンと大差がないという事もあり、最早ヒルベルトに負ける要素など無かった。
防具の上から噛まれはしたものの、大した怪我もなくヒルベルトは怪異を蹴散らした。

「心臓に悪い……しかし、アニー達やフレディは大丈夫なのだろうか」

 見知った顔の安否が気になりつつも探索を続けるヒルベルト。
アンゲロから預かった徒渉る神の目でビンテージワインを見つけたりしつつ、ヒルベルトは船長室へと向かう。
乗っていた船が幽霊船だった証拠として航海日誌を回収し、更に奥へと進むと何故か舵のハンドルがあった。
航海日誌の内容をヒントに舵の仕掛けを解くと間抜けそうな漁師の幽霊が現れた。

「どうも~こ~んばんはぁ……あっしはニコラウス。ニコとでも呼んでくだせえ」

 ニコの話によると、美しい女の妖魔がこの幽霊船に棲み付き、乗組員の魂を喰らっていたらしい。
それだけでは飽き足らず、港にやってきて人を攫うようになり、どうやらそれに巻き込まれたのが真相のようだ。
ちなみに、ニコはその妖魔に気に入られた為、食べられない代わりに仕掛けによって閉じ込められており、その仕掛けは甲板への階段を隠すのにも使われていた。
また、その妖魔が歌で相手を眠らせると聞いてそいつがセイレーンだと予想したヒルベルトは、そのまま妖魔のいる甲板へと向かったのだった。

「あら、可愛いお客さんがいるのね」

 甲板にはこの事態を招いたセイレーンと右腕を失って倒れたフレディがいた。
ヒルベルトが甲板に上がったのに気付いたセイレーンは、高笑いしながら自身がやってきた事を語り出す。
そして、余裕たっぷりに襲い掛かるセイレーンに対し、ヒルベルトは言い放った。

「船に閉じ込めたり不意打ちしたりしかできない妖魔なんて、たかが知れてるな」

「な、なにをおぉ……!? 五月蝿い食べ物如きが……黙って食われればいいものを!」

 ヒルベルトの挑発に激怒するセイレーンだが、それでも冷静さを失った訳ではなく、瘴気を集めて船室でヒルベルトを襲った怪異を3体も召喚した。
3体の怪異で前方を固めて、自身に攻撃が届かないようにするセイレーン。
だが、ヒルベルトも予めディリスの盾の防御魔法を使っていて、さらにビンテージワインの瓶を取り出していた。

「こんな飲み方するのは勿体無いが……」

 と言いつつ取り出したワインを飲むヒルベルト。
なぜなら、このビンテージワインには一時的に力を増大させる効果があったからだ。
力が増大したのを確認したヒルベルトは、セイレーンの歌を物ともせず怪異の内の一体を斬り付ける。
このまま突破口を開こうとするヒルベルトだが、別の怪異に噛みつかれてしまう。
その隙をついて、セイレーンは瘴気を集めて斬り付けられた怪異を回復させた。

「再生した……だが!」

 再びヒルベルトは怪異を斬り付け、更に剣の腹で叩き落とす。
ダメージを受け過ぎた怪異が消滅し、敵の陣形に隙が出来る。
しかし、波によって船が揺れ、その隙に飛び込んだヒルベルトは体勢を崩して再び怪異に噛まれた。
だが、ヒルベルトはそれでも間合いを保って剣をわざと鞘に納め、必殺の居合切りがセイレーンの胴を薙ぎ払った。
確かな手応えを感じるヒルベルトだが、セイレーンは周囲の瘴気を集めて傷を癒していた。
更に、セイレーンは瘴気を集めて怪異を召喚し、陣形を組み直した。

「勝負はこれからよ」

「怪異を召喚するのも傷を癒すのも瘴気を使ってるが……そんなペースで使ってたらそろそろ打ち止めじゃないか?」

 言葉を返せず舌打ちするセイレーン。
それもそのはず、ヒルベルトの居合切りによって受けた傷を完全に癒す事が出来てなかったのだから。
ヒルベルトは2体の怪異を切り伏せると、その勢いで剣を大きく振り回した。
残った怪異ごとセイレーンを切り裂いたこの剣技は、武闘都市エランで学んだ薙ぎ払いという剣技だ。

「後は、お前一人だ!」

 ヒルベルトの剣が、フレディの受けた痛みを味わえとばかりにセイレーンの右腕を肩ごと斬り落とす。 
続く一撃は躱されたものの、ヒルベルトは確実にセイレーンを追い詰めたのだ。
そして、ヒルベルトは渾身の上段斬りで、セイレーンの胸部に深い斬り傷を負わせた。
心臓にまで達したその傷からは大量の血が吹き出し、それが致命傷であることは一目瞭然だ。

「ぐふっ……やって……くれるじゃない。あんた、痺れるわ。けど、この船は……あたしのモノ。あたしが動かしていたモノ。とうに舵など効きはしないし……どうせあんたもお仕舞いよ」

 と、両膝を付きつつも負け惜しみを言うセイレーン。
だが次の瞬間、セイレーンはヒルベルトに飛び掛かり、自分もろとも海に落とそうとしてきた。
しかし、倒れていたフレディが横からセイレーンに体当たりし、自分ごとセイレーンを海に叩き込んだのだった。

「フレディ!?」

 ヒルベルトはフレディの落ちた海面を目で探したが、結局フレディを見つける事は出来なかった。

「で、幽霊船の次は活火山か……」

 半日ほど漂流した結果辿り着いた島の砂浜でヒルベルトはそう呟いた。
セイレーンが細工をしていたからか船の舵は動かせず、ニコはあっさりと成仏してしまって知恵を借りれずで、そのまま漂流した結果、活火山のある島に辿り着いたのだ。
しかも、その火山は噴火が近い為、ヒルベルトは一刻も早くこの島を離れねばならなかった。
そして、島を探索した結果、槍を持った赤い二足歩行の鳥らしき生物を2体見つけた。
その生物はペンギンに瓜二つなのだが、ヒルベルトはそれを知らず、妖魔と勘違いして襲い掛かろうとしたが……。

「ま……っ、また人間が来たギャー!」

 とペンギンの片割れがいきなり叫びだした。

「どういう事だ?」

「簡単なことだギャー。今、村で海に打ち上げられた人間を介抱してるんだギャー。まだ村の中に居るはずだギャー。会いに行ってみるといいギャー」

 という訳でペンギン達が友好的な種族だったことに驚きつつも彼らの村に入るヒルベルト。
そして、族長らしい青いペンギンに漂流者について話を聞いていると足音が聞こえてきた。

「ふー、疲れたわ! おじいさん、お水はないの?……ってあなた#Rじゃない!!どうしてこの島に居るの!?」

 やってきたのは眼鏡を無くしたアニーとその従者サノーヴァだった。
二人は食堂で怪異に襲われたものの、どうにか見つけた筏で船から脱出し、この島に漂着したのだった。
ちなみに、アニーの眼鏡は伊達眼鏡だった為、眼鏡を無くした事は余り気にしてはいないようだった。
そして、脱出方法について相談してみると、アニーが族長から島神様に祈りを捧げる事を提案されたと話した。
族長に詳しい話を聞いてみると、夕暮れ時に寝所へこの島の一部で湧いている赤と青の聖水を備えるときっと島から出してくれるとの事だった。
話し終えると、族長は村に湧いている青い聖水の入った瓶と空の瓶をヒルベルトに渡したのだった。

「夕暮れまでに……だったな。とりあえず北東の方向へ行ってみればいいんだな」

「まぁ! 探しに行くのね! 私達もご一緒しても構わないわよね、サノーヴァ」

「はい、お嬢様」

 という訳で、アニーとサノーヴァを連れて探索するヒルベルト。
ペンギン達は火山の噴火によって滅ぶのだとしても島を離れるつもりはなく、3人で島の脱出を試みる事となった。
砂浜に居た小さい海老の群れを捕まえて昼食にしたりしつつジャングルを歩き回ると、怪しげな洞窟を発見。
中に入ってみると、奥の方に赤い聖水の源泉が見えたので、警戒するヒルベルトを無視してアニーが駆け寄ろうとする。
しかし、隠れ潜んでいた古代魚が現れ、先走ったアニーを締め付けた。

「やっぱりこうなったか……」

「冷静に見てる場合なの!?な、なんとかしなさいよォオ!」

「はい、お嬢様」

 危険な状況でもどこかコミカルなアニー達。
だからと言って油断せず、ヒルベルトはアニーを傷つけないように注意しつつ、居合切りを放つ。
だが、古代魚の硬い鱗に気合を込めた剣が止められてしまった。
予想外の硬さに驚きつつも再び剣を振るうが、それでも斬れないどころか逆に尾びれで叩かれてしまった。
だが、ヒルベルトはある事を思いつき、サノーヴァに言った。

「あいつは確かに硬いが中身は只の魚だ。攻撃自体は鱗で防げても中に伝わる衝撃までは耐えきれないはずだ。一気に畳み掛けるぞ」

 言い終えたヒルベルトが大きく剣を振り被ると、サノーヴァもまた拳を構えて突撃する。
そして、ヒルベルトの剣とサノーヴァの拳がほぼ同時に直撃した。
それでも古代魚に傷をつける事は出来なかったが、成果が無かった訳ではない。

「バテてきてるみたい……! 巻きつく力が弱くなってきているわ! あと……少し……で抜けられそう!」

 アニーの言うとおり、度重なる衝撃は古代魚の体力を奪っていたのだ。
それでも古代魚はアニーを締め付け、追撃してきたヒルベルトに尾びれの一撃を喰らわすが、その隙をサノーヴァが見抜いた。
サノーヴァの掌破が古代魚を打ち据え、遂に締め付けを維持でき無くなった古代魚からアニーが抜けだした。
そして、ヒルベルトとサノーヴァの連続攻撃の前に、古代魚は力尽きたのだった。

「い……泉というか何と言うか……」

「マグマ……と言いたいところだが、全然暑くないな」

 そんな事を言いつつ空の瓶に赤い聖水を詰めるヒルベルト達。
そして、日が沈む前に寝所を発見し、二つの台座の上にそれぞれ浮かんでいる宝玉に対応する聖水を掛けた。
すると、宝玉が光ると同時に高い波飛沫が上がり、魚と竜を合わせたかのような生物が現れた。
それが何なのかヒルベルトには解らなかったが、それでも目の前の存在が強大である事と自分達に敵意が無い事くらいは解った。

「冷静と情熱を捧げし小さきものよ。我に乞うは何ぞ?」

「島神よ、我々はこの島の民ではない。訳あって漂流してきた者だ。リューンへ帰りたい」

 島神を見て軽いパニックを起こしそうになったアニーを宥めつつ、3人を代表してヒルベルトは言った。

「故郷を思う小さきものよ。よかろう……手を貸そう」

 そして、ヒルベルト達はリューンへと帰る事が出来た。
ヒルベルトは、フレディの所属していた宿に彼の死を伝るといつもの生活へと戻った。
その後、偶然にもチケットを渡した老人に出会い、彼は高値で幽霊船で見つけた航海日誌を買い取ったが、その後は特に何も起こらなかったので、罠の心配は杞憂だったようだ。
他に変わった事と言えば、あの冒険以来、アニーが実家であるメイソン家の依頼をラッツネストに持ってくるようになった事ぐらいだろうか。 


引き継ぎ金収入支出ツケ合計
金額(sp)1270+2500-1000-4002370

※航海日誌は売る以外に使い道が無いのでシナリオ内のイベントで売却しました。

スキルアイテム召喚獣
薙ぎ払いコカの葉×2





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Last-modified: 2014-12-29 (月) 22:46:09