ステファニーがラッツネストに帰ってこれたのは真夜中だった。
というのも、ラッツネストでは実入りの少ない依頼が溜まっており、それを消化するために親父さんによって宿の冒険者が総動員されていた。
そして、ステファニーに割り当てられたのが必要経費だけで報酬が無くなってしまう隣村への手紙配達だったのである。

「疲れたぁ……親父さん、おやすみ。……って、こんな時間に誰」

 と、2階に上がろうとしていたステファニーが扉をノックする音に気付く。
何となく気になったので扉を開けてみると、そこには自分よりも少しだけ幼い銀髪の少年がいて、とある屋敷に捕らわれたアジェイという鳥を取り返す事を依頼してきた
フェンと名乗った少年の身なりや言葉遣いは、彼が上流階級の者であり、この依頼が厄介事であることを示していたが……。

「まあ、あたしより年下の子に父親の形見の指輪を報酬にした依頼なんて出されたら、受けるしかないよね」

 そして、ステファニーを信じているからと、報酬を前払いにして去っていくフェン。
しかし、今夜のラッツネストの来客は彼だけでは無かった。
フェンが去ってからそう時間の経たないうちに、黒服の若い男がやってきたのだ。
フェンを知っているらしいその男は、指輪を掠め取って銀貨の詰まった袋を取り出し、フェンの依頼を破棄して指輪を売り渡す事を要求してきた。

「何か色々知ってるみたいだけど、そのお金は要らないから指輪を返してよ。今回ばかりはお金で裏切るなんて無理」

 睨み合う二人。だが、男はいきなり笑い出した。

「たいしたものだ! ……あいつの人を見る目は確かだ。気に入ったぞ。よし、これは返そう」

 といい、ステファニーに指輪を渡す男。
そのまま、思わぬ出来事に呆気にとられるステファニーに、こう言った。

「ただし、あの子がおまえに何を頼んだのであっても、それが実現することはない。おまえが何をしようと私が必ず邪魔をするからさ」

そう言い、男もまたラッツネストから去って言ったのだった。

 そして、翌日。指輪を手がかりにして情報収集していたステファニーは、再び男と会う事になる。
情報収集の途中、襲ってきた覆面の暗殺者らしき男を返り討ちにしていた事もあってより警戒するステファニー。
ちなみに、暗殺者はゴブリン程度の強さだったのであっさりと倒したステファニーは、迷惑料代わりに身に着けていたブローチと懐に入ってた傷薬を頂いたとか。

「で、今度は何の用? 覆面被ったしょぼい暗殺者さんなら、今頃治安隊の牢屋に居るんじゃないかな?」

 引退した先輩冒険者に教えられた男が暗殺者を送ったかどうか揺さぶってみるステファニー。
だが、男はステファニーを暗殺者が襲った事に驚くのだった。
問いただしてみても、男が指図したようには見えなかったし、良く考えてみれば冒険者を暗殺するには無理がある計画のような気がしてきた。
そう考え、ステファニーは調べた事を元にした考えを話し始めた。

「あの暗殺者が付けていたブローチにはディリス王国の紋章が彫り込まれてて、フェンもそれを身に着けていた……って事は、暗殺者が言ってた会ってはならない人間って、フェンの事?」

「そう……かもしれない」

「……もしかして……フェンが、ディーリアナ姫とその恋人だったマルス師の子供だから?どっちだとしても、あたしはフェンの為に動く事に変わりは無いけど」

 男は沈黙で肯定だと示すと考え込み、呟くように語り始めた。

「……あの子は、お前を信じた。お前も……あの子の力になりたいと思っている……それなら、私も……あの子に関する重要な選択をお前に託そう……」

「えっ……あたしに?」

「もし、あの子供を本当に救いたいと思うのなら、これから私の行くところについて来て欲しい。お前が今、私についてこなければ、あの子は明日の夜明けを待たず、死ぬことになる。私の言葉が信じられないのならそれは、それでかまわない。それが、あの子の……運命だろう」

 ステファニーは彼を信じることにした。
お世辞にも性格は良いとは言えないが、卑怯な真似をするような奴には見えなかった。

「さてと、あたしはステファニーで……なんて呼べばいいんだっけ? 名前を教えてよ」

「私は……アダだ。アダ・ルサ」

 そして二人は、ディーリアナ姫懐妊のお祝いが行われる肥えた猪亭へと向かったのだった。

「これを着けろ。これを着けていれば、この肥えた猪亭でも怪しまれずに動き回れる」

 といって、アダがステファニーに渡したのはメイドのエプロンとキャップだった。

「えっ!? あたしみたいな子供がそれ着けてたって怪しまれるだけだよ! しかもあんな高級な店で給仕なんて絶対無理!」

 と、声を荒げて反論するステファニー。
貧しい孤児院にいた頃、十分な栄養を取れていなかったステファニーは余り背が伸びず、小柄だった。
冒険者になってからはちゃんとした食事をとれるようになってはいるが、それでも背は同年代の子供の平均よりも低い。
また、ステファニーに給仕の経験なんてものもなく、普通なら無謀としか言いようのない作戦だった。

「問題ないだろう。今、あそこは戦場なみの忙しさだ。たくさんの手伝いも外から入っている。顔など見分けはつくまい」

 とはいえ、アダには十分な勝算があった。
他に方法が無い事もあり、ステファニーはアダの言うとおりにして潜入する事になったのだ。

(で、上手く行っちゃったんだけど……)

 ステファニーは誰にも怪しまれる事無く、潜入に成功し、浮かれた客からチップまで貰っていた。
そして、アダの指示通りディーリアナにフェンから貰った指輪を見せた。
後は、体調不良だとして顔色を変えたディーリアナを部屋に連れて行くアダに付き添うだけだった。

(しかし、凄い事に巻き込まれちゃったなあ……)

 アダとディーリアナとの会話で、ステファニーは様々な新事実を知る事になった。
タキーシスがディリス王国を完全に支配するには、ディーリアナのタキーシスと血が繋がらない子供であるフェンが邪魔だったという事。
アダがディーリアナの夫のタキーシス将軍の隠し子で、フェンを監視し、ディーリアナ姫懐妊のお祝いが行われる日に殺す事を命じられていた事。
しかし、アダは自分でも知らない内にフェンに愛着が湧いていて、彼を殺す事が出来なくなっていた事。
そして、アダの裏切りに感づいたタキーシスが、フェンを攫って暗殺しようとしている事。

(とにかく、今は早くフェンを見つけないと)

 という訳で、メイド長に命じられた兵士への食事配達の仕事をこなしつつ、こっそりと情報を集めるステファニー。
すると、働いていたメイドの話から、肥えた猪亭の別館である痩せた白豚亭にフェンが居る事を突き止めた。
早速、痩せた白豚亭へと向かったステファニーは、見張りの兵士に弁当の入った籠を投げつけて視界を封じ、そのまま腹をナイフの柄で殴って気絶させる。
そのまま侵入したステファニーは、見張りの居る扉を発見し、遠くからスリングで石を見張りの頭にぶつけて気絶させた。
そして、部屋の中には手首と足首を縛られたフェンが居たので、駆け寄ろうとしたステファニーだったが……。

「バレバレだよ!」

 そう言いながら、背後からの剣を躱すステファニー。
背後に居たのは、路地裏で襲い掛かってきた者のそれよりも良い動きをする覆面男。
だが、ステファニーのほうが一枚上手だ。
覆面男にフェイントをしつつ間合いを取ったステファニーは、スリングで一方的に石をぶつけ、姿勢を崩したところをあっさりと気絶させた。
そして、フェンを縛る縄をナイフで切ると、彼を背負って部屋から出た。
駆け付けたアダの助けもあり、どうにか痩せた白豚亭を出たが、その直後、痩せた白豚亭が爆炎に包まれた。

「……その、下賎な血の子供を兵士たちに見せるわけにはいかないからな」

 その声の主は火筒を持ったタキーシス将軍がいた。
彼は大胆にも、フェンを殺害する為に火筒で痩せた白豚亭を焼き払ったのだ。
しかも、直属の兵士にディーリアナを連れてこさせ、彼女にその光景を見せつけるようにして。

「がっかりだぞ、わが息子よ。やはり弱小貴族の娘の血が混じった子供なぞ、すぐ情に流されてこのざまだ。我が血族として…、すこしは見所があるかと思っていたものを」

「ただでさえ散々やらかした上にあそこにいた兵士まで巻き添えって……アダ! あんな最低のダメ親父、とっとと倒しちゃおう!」

 直属の兵士二人を連れて襲い掛かってくるタキーシス。
将軍の地位にいるだけあって、経験に裏打ちされた剣技は確かな物であり、早速ステファニーを剣が捕らえる。
しかし、ステファニーはブローチに隠された防御魔法で一命を取り留め、アダの回復魔法でその傷も完治した。
だが、その直後にタキーシスの剣が再びステファニーを切り裂いた。

「これでは回復魔法も間に合うまい、所詮屑か」

 勝利を確信するタキーシスだが、その目の前でステファニーの傷がいきなり再生した。

「何だと!?」

「攻撃のタイミングは良くても傷が浅い……だから、十分間に合ったよ」

 そう言いつつ、こっそりと自身の指にはめてある黒い指輪を見るステファニー
この『憧憬』と名付けられた黒い指輪は、単独行動することになったステファニーにいざというときの備えとしてギー・ギャロワから渡されたものだ。
『憧憬』の力によって回復したステファニーは、タキーシスの部下を狙ってスリングで攻撃していき、その片方を倒した。
プライドを傷付けられたタキーシスがステファニーを集中攻撃した為ステファニーは重傷を負うが、再び『憧憬』の力を使って傷を癒し、スリングでもう一人の兵士を倒した。

「タキーシス! 後はお前一人だ!」

 ステファニーのスリングが、アダの剣が、タキーシスを消耗させていく。
反撃とばかりに剣を振るうタキーシスだが、傷をつけてもアダの回復魔法がすぐに治してしまう。
傷だらけになって追い詰められ、必死に防御姿勢を取るタキーシスの剣をステファニーのスリングでの一撃が弾き飛ばし、アダの剣が体勢を崩す。
そして、アダの全力で振るわれた剣が、タキーシスの脳天に振り下ろされた。

「で、タキーシスは死んだ後、アダが上手くやったのもあってディリス王国はディーリアナひ、じゃなくて陛下を中心とした国へと向かってるって。勿論、フェンとアダも協力してだよ」

 そう言い、依頼を終えて戻ってきた仲間達に自身の冒険譚を話し終えるステファニー。
最も、ギー・ギャロワはベアトリスが使いこなせなかったという魔術書を受け取りに行き、アンゲロもまた賢者の塔へと出かけていたのだが。

(大変だったけど、上手くいって良かった……けど、あたし達には身に余る物だったからってお礼の首飾りを売っちゃたのは勿体無かったかな)

 そう心の中で言い、ステファニーは日常へと戻っていくのだった。


引き継ぎ金収入支出ツケ合計
金額(sp)1865+1605-600-2002670

※首飾りは売る以外に使い道が無いので売却しました。

スキルアイテム召喚獣
魔法の雲指輪、ディリスの盾、傷薬、コカの葉





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Last-modified: 2014-10-11 (土) 21:58:17